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2009年11月24日 (火)

コブタの真珠 あとがき3 フィギュアスケート小説

目次 ←最初から読まれる方は是非こちらから

(あとがき2からの続き)

「コブタの真珠」は、鈴原真珠の視線で描かれていますが、もう一人対照的なキャラクター中山 楓が出てきます。

実は、この物語はこの楓の主人公の物語、「楓舞う」 のスピンオフ的存在のストーリーです。

楓がどうしてフィギュアを始めたのか。どうして銀メダリストの蒼井桜がコーチをしているのか・・・どうして蒼井桜が楓を育てているのか・・・・・

「楓舞う」 はまだ文章化するには、話がまとまっていないので、「コブタの真珠」の方を先に文章化したわけです。

そして、真珠の今後はどうなるのか・・・

読んで頂いた方以上に自分が気になるので・・・・

もうすこし、整理して話を紡いでいきたいと思います。

少しでも多くの方に満足を得られるよう、文章力に磨きをかけてまた・・・・

本当に、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

またのお越しをお待ちしております。

感想などありましたら、書き込みでも、メールでもお待ちしております。

かよきき

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2009年11月23日 (月)

コブタの真珠  あとがき2 フィギュアスケート小説

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(あとがき1からの続き)

この小説を書くにあたって、フィギュアスケートのことを片っ端から調べました。しかし沢山の情報の中で、どうストーリーを組み立てるか迷っている中で、文章で再現できない内容がフィギュアスケートにはあることに気づきました。

音楽のことです。

どんなに文章を並べ立てても音楽は文章では表現できない。

それをどう表現するか、非常に悩みました。それで、これまた片っ端からクラシックや演技に使われた音楽を聞きました。今まであまりクラシックなど聞いたことがなく、新鮮でしたが特に好きではなかったので、そこまで楽しい作業ではなかった・・・・

しかし、その作業の中で、妙に自分の心の中に引っかかった曲がありました。その曲はなんというか、まるでよく出来たショートケーキのような聞き応えでした。こんな言葉ではよく意味がわからないかもしれない。 世の中には王道という言葉がある。しかしその言葉と裏腹に王道には大きな弱点がある。それは飽きられているということ。すでにあるものをアレンジする。そんな感じのニュアンスが少なからず王道にはある。

その曲は正に王道だった。

特にすごいアレンジや独特なメロディがあるわけではない。

しかし、その曲は実によく出来ていた。

そこまでの曲を書くまでどれほどの苦労をしただろう・・・そう思った。

「カヴァレリア・ルスティカーナ」

最後に真珠が演技した時の曲です。

調べてみると、作曲家、マスカーニは世紀の一発屋と言われた音楽家だった。

詳しくは本編に書いてあるのですが。

運命を感じました。こんなに自分の考えていたストーリーとピッタリハマル曲と作曲家があるなんて奇跡だと思いました。

是非一度、聞いてみて欲しい。自分の言っていることが、きっとよくわかります。

極上のショートケーキ・・・・・そんな曲です。

(続く)

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2009年11月22日 (日)

コブタの真珠 あとがき① フィギュアスケート小説

いらっしゃいませ。 かよきき作 「コブタの真珠」 にようこそ。

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また、一話でも読んでくださった方、ありがとうございます。

そして、全部読破して頂いた方。 ゴリゴリゴリ・・・(頭を床に押し付けるほどに)ありがとうございます。

この作品は実際に書かれたのは去年の夏前で、しっかりと文章に起こしたのは、今回が初めてということになります。ですから、毎年変わるフィギュアスケートの点数、ルール等などは一昨年の規則を参考にしています。

この作品を最初に書こうと思ったきっかけは、07年の世界選手権。安藤美姫選手の優勝を見てからでした。前から、好きで女子フィギュアスケートをよく見ていたのですが、とくにルールなど詳しいわけでなく時たま放送されるドキュメントなどを見て選手達のバックボーンを少しずつ知っている程度でした。

当時、いや今でもそうだが、報道や世間の期待は天才、浅田真央選手に全て向けられ他の選手はまるでサブキャラのような扱いになっていた。しかし、今のキムヨナ、浅田真央時代の前、日本のホープは安藤美姫だった。報道はフィギュアスケートといえば安藤であった。写真誌は毎週のように安藤のスナップが載っていたし、ミキティと言われアイドル的存在になっていた。

トリノで荒川静香さんが金メダルを採ったとき、安藤選手は期待に反し失敗の連続だった。でも若い安藤選手はそんな失敗などものともせず、荒川選手と同じ色のメダルが欲しいと言っていた。しかし、その直後、彗星のように現れた天才は日本のフィギュアの話題を全てさらっていった。肩などの故障をかかえ棄権したり、失敗が多くなった安藤選手の話題は段々少なくなり、

たまに報道が出れば、4回転の話ばかり、いつのまにか安藤選手は4回転を飛ばないといけないような空気に包まれ、本人も4回転に固執しているように見えていた。

安藤選手の心中はどれほどだっただろうか・・・スポーツ選手の仕事が自分のレベルをストイックに上げることなのは当たり前だ。しかしあれほど大人気だったにもかかわらず、一気に人気を奪われ故障にも見舞われ、どれほどつらかっただろう。

あくまで、勝手な想像である。しかしその想像をすると自分は安藤選手を応援したくなり、安藤選手の試合だけは忙しくも欠かさず見るようになっていた。

そして07年の世界選手権だ。、そこで安藤選手は4回転を跳ばなかった。

安定した演技で美しくまとめた演技で優勝を果たした。

もちろん浅田選手の失敗もあった。

その時の安藤選手にさすがに泣いた。感動した。

引退も考えたというシーズンに女王になったのだ。

努力が・・・苦労が・・・全て報われる感動。

これほど、素晴らしい事はない。そう思う。

そんな感動を自分も作品で描きたい。 それが始まりでした。

現在、浅田選手が壁にぶち当たっているようです。

08年からトリプルアクセルの点数が格段に上がった。

現在トリプルアクセルを跳べる選手は浅田選手と中野選手だけ。

トリプルアクセルに頼るあまり、それに固執しすぎ、去年見せた妖精のような表現力が色あせてしまったように見える。一方、ライバル、キムヨナ選手の究極の表現力は世界のフィギュアファンを虜にした。

しかし、自分は浅田選手の真の表現力が発揮されれば、映画音楽のテーマに合わせたキムヨナ選手の演出表現力よりも勝ると思う。いまの壁を越えた時、また恐ろしくも美しい演技が見られると期待しています。

そして、そんな強敵たちに負けないよう安藤選手に頑張って欲しい。

(続く)

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2009年11月21日 (土)

コブタの真珠 最終話 フィギュアスケート小説

『毎朝 4時に起きた 』

始発のバスの中から見た風景を思い出す。
薄暗い朝もやの街・・・ まばらな駅のホーム・・・

『いつもダイエットで空腹に耐えた 』

技が出来るだけではダメなのだ・・・見た目もフィギュアには重要なポイント・・・
太りやすい自分の体をコントロールするため過剰な調整、ダイエットもしてきた。
例えコーチや両親に止められても自分の信念に従った。

『平日も休日もなかった 』

親友なんていなかった。 遊びに誘われてもいつも断ってきた。
寂しいと思ったことなんてなかった。
だって少しでも時間を無駄にしたくなかった。
 いつでも氷の上にいるつもりでいた。
そのために、必ずポニーテールで暮らしてきた。
毎日、毎分、毎秒、その時間の積み重ねに曜日なんて関係なかった・・・

『全ては・・・・・』

真珠は最後のジャンプ ”2F(ダブルフリップ)”のため、右足のつま先で踏みきり
跳んだ。

お母さん、お父さん、松山コーチ、クラブのみんな、審査員、会場の観客、スタッフ
そして楓、蒼井桜・・・この会場にいる全てに人間がリンクの上のたった一人の選手、
真珠をを見つめていた。

『全ては この一瞬の”美しさ”のために!! 』

美しく、そして完璧な着氷だった。
何百回も何千回も練習したであろう、その演技は真珠の人生14年間そのものだった。
そして、曲のピリオドと共にリンクの中央で止まり大きく両手を天にかざした。

見ている者にはまるで真珠から熱気のようなオーラのようなものが出ているかの錯覚に陥る。かざした手の勢いで汗が頭上に飛んだ。照明できらびやかに光るその水滴がスローモーションで漂っているように真珠には見えた。

「はぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」

熱い息を大きく吐いた。

『これが・・・・私の全部・・・』

天を見つめている瞳から涙をこぼれはじめる。

『・・・・・・・・終わった・・・・・・・・・』

この瞬間、真珠のフィギュアスケート人生が終わったのだ。
涙が止まらない。
ゆっくりとかざした手をおろしながら涙をぬぐった。
そして、回りをうかがった。
会場は静かだった。

『歓声も・・ない・・・か・・・』

無理もない。楓の高度な演技に比べ、難易度の高い技は皆無だった。
真珠はそれでも微笑を浮かべ見てくれた全ての人にお辞儀をした。何度も。

パチ・・・

お辞儀で下を向いた真珠の耳に拍手の音が小さく聞こえた。

パチ・・・パチ・・・

「え? 」

顔を上げ会場を見渡した

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

堰を切ったような拍手の洪水が起こる。
立ち上がっている者もいる。涙している者もいる。
目の前で繰り広げられた、たった3分30秒に凝縮された真珠の14年間の人生の演技を称えた拍手だった。
真珠は訳がわからず茫然とした。

「あれ・・・私の娘なんです。 私の娘なんです!! 」

真珠の父はまわりの喋ったこともない人達に泣き笑いながら真珠を指差して自慢した。母もうっすらと涙をためて、拍手した。

真珠は意外な数の拍手に驚き再び大きくみんなにお辞儀をして帰っていく。

ガン!
蒼井はリンクの壁を叩いた。

「・・・ピエトロ・マスカーニ・・・」

楓は大きく拍手をしながら蒼井を見た。

「おそらくコブタは”ピエトロ・マスカーニ”の情熱を表現したのさ。」
「マスカ・・・ ? 」
「マスカーニ。 19世紀末の作曲家さ。」

蒼井は腰に手をやって、帰ってくる真珠を見つめた。

「パン屋の息子に生まれながら音楽家にあこがれたマスカーニは幾度も挫折を繰り返し苦労の末、たった一度その実力を出し切った渾身の一曲を書き上げ、時代の寵児とまで言われるまでになったんだ」

楓は拍手を止めた。

「そして、その曲こそが・・・
”カヴァレリア・ルスティカーナ” 今の曲のことさ。 
おそらく引退を決意しコブタは自分の全てを出し切ることに専念した。それが曲の持っている作曲家のオーラと見事に一致したんだ。」

蒼井の額にはうっすら汗が出ていた。その汗は興奮というより、恐怖の冷や汗と言った方が正しい。その証拠に未だに細かく蒼井は震えていた。

(自分も知らないうちにね・・・・・)

蒼井は唇をかみしめ、真珠を待つ松山の横顔を見た。

(あのコブタのコーチのなんとかって女。とんでもない策士だ。
おそらく、他のコーチもコブタの両親も全く気づいていない。
私だって今の演技を見るまでは、コブタを努力家の凡人だと思っていた。)

腰に当てている拳を再び強く握った。

(コブタは凡人なんかじゃあない。
いくら練習したところであそこまで安定感のある演技が出来るものじゃない。
あのまるでブレードまで神経が通っているようなディープエッジは天性のものだ。
おそらく、コブタは幼い頃から楓並みのセンスを持った天才だった。
だが、あのコーチはそれを封印したのだ。

理由は解る。

コブタは、異様なまでに貪欲だ。それは3A(トリプルアクセル)を隠れて練習する姿でもよくわかる。インラインスケートを改造し地面で練習しようなんて普通はしない。

先を急ぎすぎ、技術とクリアにこだわるコブタをそのまま育てれば薄っぺらな技術しか身に付かない所で満足し引退してしまっていたかもしれない。
そんなコブタを上手く育てるには、本人、まわりも含めて全員に”凡人”として接し少しずつ上手くなる面白さを味あわせていったのだ・・・。

自分を”凡人”として認識したコブタは努力を積み重ね少しずつ、少しずつ・・・着実に小さな”好き”を”完璧”に変えていった。
まるで太く歴史の刻まれた桜の大木のように育ちそして、満開の花を咲かしたんだ。)

蒼井が血が出そうなほど下唇を噛んだ。

(10年・・・・コブタがいつフィギュアを始めたかなんて知らないが、
おそらく10年近く・・ずっと・・・ずっと・・・あのコーチは、まわりをだまし続けた。いつも引退ぎりぎりの決意の元で飛躍的にコブタの技術を伸ばしてきた。
たぶん今回も私が言わずとも何らかの形でコブタがもうすぐ急激な発育が来ることを伝え引退の決意をさせ、精神的に追い詰め自分の人生の悔いを残さないような演技をさせることで、本当の”表現力”を引き出すつもりでいた・・・・
私が全部言ったことは、かえって好都合だったのだ。)

拍手の洪水の中、真珠はリンクの出口に到着した。
松山はブレードカバーを真珠に渡しスケート靴にカバーをつけると、こらえきれず
真珠を抱き寄せた。

「先生・・・?」
「よくやった・・・本当によくやったわ・・・」

松山は真珠の両肩に手を置き真珠の目を見つめた。
松山も泣いていた。

「今の。今の”全部出す”感覚を忘れちゃだめ。」
「・・・・・でも・・・私もう・・・」

その時、楓が走ってきて真珠に抱きついた。

「コブタちゃん!! すごーい!! やっぱりすごい!! 思ったとおり!! 」
「楓・・」 

その後ろから、蒼井がゆっくりと歩いてきた。その顔は怒りに満ちている。

「な・・・なんか蒼井さん怒ってる? 」
「あー先生はアル中で負けず嫌いだから・・・」
「誰がアル中だぁー!! 」

楓のコメカミをゲンコツでグリグリと閉めると ギャーと叫びながら魂が抜けたように床に落ちる楓。そんな楓を無視して蒼井は真珠をキッ睨んだ。

「このアタシに勝ち逃げなんて許さないよ」
「・・・・勝ち逃げって・・・だって、優勝はたぶん・・・・」

真珠は蒼井の言っている意味が全くわからずキョトンとした顔をしている。
蒼井は松山の方に視線を移した。

「ふん・・・上手くやったね。 アンタの作戦通りなんだろう? 
才能のことも、マスカーニのことも。だが、技術の上ではまだまだ、楓の方が何枚も上手だからね。」

蒼井は完全にコーチとして敗北を感じていた。
真珠の大木のようなフィギュアスケートに比べれば、どんなに美しくても楓の演技は薄っぺらい一輪の花にしか感じない。
松山は複雑な表情を浮かべつつ真珠の肩を再び抱いた。
真珠は何のことかわからず、2人の顔を交互に見ていた。
松山は、間をおき言葉を選ぶように言った。

「蒼井さんは、なにか大きな勘違いをしている・・・・」
「? 」

蒼井は睨みつけるような表情から眉を上げた。

「私はただ・・・・・そう・・・伝えたかった。
フィギュアスケートの選手寿命というのは本当に短い。でも、その中で人生で大切なことを私はこの子に伝えたかっただけです。」

松山は優しい目で真珠を見た。

「”全力を出すこと” こと10代のこの子達において大事なことは結果じゃない。自分の力をどれだけ出せるようになるか。それが一番大事なことなのよ。」
「・・・・・・・」

蒼井は無言のまま一度舌打ちをした。そして、また睨みつけるような目で真珠を見た。

「今、この国のフィギュアスケートは完全にスポーツだ。 やれ3A(トリプルアクセル)だの、4回転ジャンプだの、ポイントにつながること勝つことばかり注目する。テレビ中継に至っては、解説がうるさくてじっくりその子の演技を見せる気なんて、さらさらない。
・・・技術も勝利も大事なことさ。でもさ、本当わさ・・・・」

蒼井は誰も居なくなったリンクを見た。
会場はさすがに拍手が終わって、真珠の得点表示を待ってザワザワとしている。

「”美しさ”。 ”氷上の美しさ”を競うものなんだよ。フィギュアスケートは。
選手はみな、アンタだって、それを求めてやってるはずだ。
だが、それでも注目されるのは技術のことばかりなのは・・・結局、今の選手が見せきれてないってことなのさ・・・本当の”美しさ”を・・・
今はまだ、この国に世界のトップを狙える選手が何人もいるからいい。でもその子達がいなくなったら、またフィギュアスケートはマイナーなイメージに逆戻りしてしまうだろう。 ただでさえ続けるのに障害が多い競技だ。それにフィギュアの華はやはりアマチュア選手の演技にかかっている。」

蒼井は突然真珠の肩を掴んだ。
あまりの迫力にビクッと真珠の体が震えた。

「いいかいコブタ。 絶対に上がってくるんだ。 その”才能”を埋もれさせちゃだめだ! 」
「・・・さい・・・のう・・・?」

真珠は耳を疑った。 自分に対し初めて使われた言葉だったから・・・・
ずっと言って欲しかった言葉だから・・・・だが才能があると言って欲しかったわけじゃない。真珠の目にはうっすらと涙がにじんでいる

「でも・・・あたし・・・もうすぐ成長して重心が・・・」

松山が真珠の頭をなぜた。

「・・・・そう・・・だから私は、今まであなたに3回転を教えてこなかった。
体の感覚が変わってしまえばまた、全部やり直しかもしれないから・・・でも・・
それから。成長の落ち着いたところで全部最初から、そしてその時こそ次のステップへいこうと思っていた。きっと、あなたなら出来る。」

真珠は衣装のスカートの端を思い切り掴んだ。

『・・・・いいんだ・・・・』

涙は頬を伝い、鼻水まで出てきた。

『まだ・・・ここ(リンク)に居ていいんだ・・・・』

松山がハンカチで鼻水をふいてくれた。
その時、場内で結果を知らせるアナウンスが流れた。

{ただいまの演技の得点・・・・}

全員が電光掲示板を見つめた。

{技術点 48、10
構成点 50、80

鈴原真珠選手の得点・・・・・98,90!}

ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!

会場が沸く。
再び、拍手が起こった。

真珠は自分の予想を大きく超えて、構成点を伸ばした。
そして、トータルで139、4点というスコアで、楓の128点を上回ったのだ。
松山はまた真珠を抱きしめた。

蒼井は、目の前で歓喜する真珠と松山に小さめに拍手を送ると足元で失神している楓を脇に持ち上げ重そうな荷物も同時にしょった。

「じゃあね。 そろそろアタシらは行くよ。」
「え 表彰式は・・・?」

真珠の問いかけに蒼井は目をあわさず答えた。

「あたしわね。もう”銀”には興味がないんだよ。」

そう言うと、関係者通路の方に足早に去る。
真珠は蒼井に抱えられた楓のおしりを見ながら、軽く微笑んだ。

『またね・・・楓・・・・』

そして楓が、もしショートをちゃんとやっていたら・・・という事を少し想像した。
おそらく史上最高点で優勝だったろう。
でも・・・不思議だった。前ほど、その実力の差が恐ろしくなかったからだ。
真珠は拍手する観客たちをもう一度見て、そしてお辞儀した。

『いいんだ・・私はまだリンクに居られる。そこで”全力を出す”・・ただそれだけだ』

拍手は長く長く鳴り止まなかった。
その音は通路にも響き渡る。
蒼井は面白くなそうな顔で足早に歩いた。

「・・・・先生・・・・・」

失神して抱えられていたはずの楓が呟いた。

「なんだ、やっぱり失神なんてしてなかったね このサル娘! 」

楓は自分で蒼井の脇から降り、蒼井の腰に抱きついた。そして明るいリンクの方を振り返る。

「・・・先生・・・私、もっと上手くなりたい・・・もっと・・・もっと・・・」
「・・・・・」

蒼井は松山の言葉を思い返した。
そして、自分がいかに、今しか見てないことに気がついた。
楓の人生はまだまだこれからなのだ・・・・そして自分の人生も・・・

「・・・ああ。 頑張ろうな・・・・ 全力で・・・」

蒼井も再びリンクの方を振り返り、楓の頭をなぜた。
その時、楓のお腹の音が鳴った。

「そういえば・・・今日外食ですよね? なに? 松坂牛? ステーキ?」

らんらんと輝く楓の瞳にガンを飛ばしつつ舌打ちをして、蒼井は無言で出口の方に歩きはじめた。

「ちょっと、先生!! さっき言ったじゃん! 約束じゃん! 」

蒼井の後をブーブー言いながら楓がついていく

「うるさい! 」
「せぇんせぇ~!! 」

2人はゴチャゴチャと言い合いながら会場から姿を消した。

3月。
まだ、うす寒い朝に始発のバスが住宅街の中のバス停で待っている。
運転手は時間を気にし腕時計を何度か見た。出発時間が迫っている。

「ごめんなさーい 」。

バス停の先の信号を渡って女の子が走ってくる。
まだ春休みだけあって、今日は私服だ。バスの入り口のステップを駆け上り、定期を読み取り機に当て、チャラーンと反応の音がする。

「おはよう! なんかまた、大きくなったね」
「おはようございます! 育ち盛りですから・・・」

女の子は息をきらしながら、いつもの一番前の席に座った。
バスはドアを閉め走りだす。
カバンの中から去年のスポーツ新聞を切り抜いたファイルを取り出した。
そこには、大きく
”フィギュアスケート日本選手権ジュニア大会。歴代最高得点優勝 天才現る!! ”
という見出しがおどっていた。
その記事に写っている子は表彰台の上でバナナを持っていた。

記事を見ながら女の子は真剣な表情をした。気合を入れるためのモノなのか、いつも儀式にしているらしい。

「おお キレイだなー 」

不意に運転手が女の子に聞こえるように呟いた。
バスの外は満開の桜並木が散り始めヒラヒラとピンク色の道を演出していた。

「・・・でも桜って。せっかく咲いても散っちゃうんですよね・・・」

女の子は切ない表情で窓の外を見て言った。
運転手は聞こえなかったのか無言で次のカーブに備えてハンドルを持ち直した。

女の子はファイルをカバンに閉まった。
車内にアナウンスが響く。

{次は縦浜駅西口。 縦浜駅西口。お降りの際は忘れものにご注意ください}

女の子はボタンを押した。
バスはゆっくりと駅の脇の銀行と花屋の前のバス停にとまった。
ドアがプシューっという空気の音と共に開き、女の子が荷物を持って再び定期を機械にあてた。

「でもね。桜はまた咲く。去年より大きくキレイになってね。」

運転手は前方をぼんやりと見ながら独り言のように言った。
女の子はニッコリと微笑んだ。

「行ってらっしゃい。」
「行ってきます!! 」

元気よく、勢いよく女の子はバスを降り、駅の階段に向かった。

また 満開の花を咲かせるために。

<おわり>

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第十話

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2009年11月15日 (日)

コブタの真珠 第十話 フィギュアスケート小説

会場では相変わらず、楓のせいで調子を崩した選手の演技が続いている。
だが、大会も架橋に入っていた。
前日一応トップだった真珠の出番は最後だったが、そろそろ準備しなければならない。

松山コーチは真珠を呼びに一緒に見ていたクラブの子やコーチに一言いってから、観客席から降りた。階段を通りすぎ、関係者以外立ち入り禁止の廊下に、コーチ証を見せ入る。
リンクの入り口に向かう方角の廊下の先には演技に失敗した子がまだ泣いていて、コーチがなぐさめていた。
それとは逆の方向に更衣室兼、控え室がある。松山は足早に向かい、更衣室の前でドアに手をかけたまま止まった。

そして目をつぶった。

「お願い・・・・」

ギュッとノブを握り締め一気にドアを開けた。

「真珠。そろそろ出番よ・・・」

真珠は・・・・寝ていた。
まるで教室で坐りなれた席でつまらない授業を聞いているように・・・
組んだ腕に顔をうずめていた。
松山の声にゆっくりと首をもたげる。

「あ・・・もう、そんな時間・・・・」

だるそうに目の前に散乱した自分の荷物を片付け、ロッカーにしまう。

「・・・・・」

松山は何も言わず、真珠が廊下に来るのを待った。

真珠は首をゆっくりと回し、背中で両手を組むと器用に柔らかな肩を回しながら廊下に出た。
松山は丁寧にドアを閉じた。

「楓ちゃんに勝つ計算・・・・してたの? 」

松山はリンクに向かう真珠の後ろについて、地面を見ながら聞いた。

「ええ・・・単独3回転ジャンプを2種類と3回転+2回転+2回転のコンビネーションでステップ・スパイラル・スピンでレベル4もらったら、130点もらって圧勝ですよ!
ハハハハハ」

真珠は大きな声で笑った。体の芯にも心の芯にも力が入っていないそんな乾いた笑い。
着ているコートの裾をギュッと松山は掴んだ。我慢する時の彼女の癖だった。

暗い廊下を抜けリンクの入り口が近づくとやけに白く眩しい。
松山には真珠のシルエットしか見えない。
その辺りで真珠は一瞬、立ち止まった。つられて松山も止まる。

「松山先生・・・・」
「・・・?・・・」

少しかすれたような小さな声。

「ありがとうございました。」

そう言うと真珠はまたリンクの方に歩いていった。
松山は硬直した。
このタイミングで言うこのセリフ・・・
松山ははじかれたような表情をしたまま、唇をかみ締めた。
更に強くコートの裾を握り締めた。もうシワだらけだ。
無言のまま、光の中の会場に入っていった。

真珠と松山がリンクに着くと、もう真珠の前の選手は演技を追え、その子の応援者たちからの拍手につられ、会場がまばらな拍手を送っていた。次の選手は普通、すぐに交代でリンクに入る。
真珠は慌ててスケート靴のブレードカバーを外し松山に渡し、氷の上に乗った。

氷のコンディションを確かめつつ、ゆっくりと大きな円を描くようにリンクをまわる。
ヒンヤリとした空気の風が真珠の頬を通り過ぎる。

前の子の結果がアナウンスされ、電光掲示板に数字が出た。
真珠はその掲示板を見もせず、おおきく深呼吸をして腰に手をあて、演技のスタート地点にゆっくりと味わうように向かった。

『ああ・・・・ねたましい・・・・』

真珠は光り輝く天井の照明を見つめた。

『私にもっと才能があったら・・・・私にもっと時間があったら・・・・』

まわりを見渡す。
リンクがいつもより広くそして白く見える。
いつもは審査員の位置を確認し、光の加減で少しでも明るく綺麗に見える場所まで確認している。だが、今日はちがう。
真珠は観客席の方を見た。 所属するスケートクラブの面々とその近くに真珠の両親がいた。

『あ・・・珍しい。 お父さん今日は来てたんだ・・・・いつも仕事でお母さんだけなのに・・・・』

両親を見てニコッと笑った。両親も真珠の笑顔に反応して手を振った。

『良かった・・・・・最後に生で見せられる・・・・』

両手を地面に向かって広げ、右足のつま先を立てた。
目を閉じ、集中を始めた。
・・・・・・まわりの雑音が消えていく・・・・・

そうしてじっと曲がかかるのを待つ。

関係者入り口から楓は蒼井の左手を引っ張ってリンクの壁に近づく。
蒼井は嫌そうに引っ張られている。

「ちょっと・・・どうしても見る気? だったら、控え室で待ってるよ私は・・・」

リンクの壁際につくと楓は、戻ろうとする蒼井の左手を胸の辺りでギュッと捕まえて離さなかった。
わくわくとした楓の顔と連動するように鼓動も伝わる。
蒼井はため息をついて観念した。

アナウンスが会場中に流れた。

「エントリー23番 鈴原真珠さん」

会場中の観客が口をつぐんだ。しかし、それはマナーであって期待を持った静寂ではなかった。今日、最初の演者、楓の演技を見てしまった観客は、自分の応援する選手でさえ退屈で仕方なかった。しかも、皆がみな、調子を崩し失敗の連続・・・
”あと一人で終わる” 
明らかに。あと3分30秒が経つのを待っているだけの静寂だった。



ピクッ!

真珠が小さな反応をした。と同時に曲が流れはじめた。
グイグイと肘を背中の方に曲げ何か見えない塊を押すように真珠はザッと勢いよく前方に滑り出した。

蒼井は真珠の滑り出しより、音楽に反応した。

(この曲・・・”カヴァレリア・ルスティカーナ”・・・悲劇の愛の戯曲か・・・)

ぼんやりと曲名を思い出した。

松山はコーチの同僚、相沢と共に壁際で真珠の滑り出しを見ていた。
手には真珠の演技予定表を握り締めていた。

「真珠に ”ありがとう” って言われた」
「え・・・それって・・・」
「・・・・」

演技表が更に歪む。松山の手がまた強く握ったからだ。

「予定だと、最初は2A(ダブルアクセル)・・・・」

松山は呟く。

(・・・・真珠・・・・)

祈るように心の中で真珠に声をかける。

「でも、松山は止めてたけど、昨日真珠は3A(トリプルアクセル)跳んでるよ? もし跳べば評価は低くても基礎点は断然高いはず・・・」

相沢は例え止めたとしても真珠が言うとおりにするわけない。そう言っているのだ。
真珠が後方から前方に向きを変えた。

(真珠!! )

松山の祈りと共に真珠は跳んだ。
1回転、2回転・・・

ジャッ! っとした音と共に綺麗に着地に成功した。

「ああ、2回転にしてきたか・・・やちゃえばよかったのに・・・」

相沢は拳を握り締めて悔しがる。
松山は何も言わず真珠の演技を冷静に見守ってる。

「次は?」
「2F(ダブルフリップ)+2T(ダブルトゥループ)」

相沢の問いに素早く答える松山。
その2人の言葉が聞こえるぐらい位置に楓と蒼井もいた。
ドキドキしている楓と違い、蒼井は完全にあわれんだ表情で見ていた。

真珠は予定表に書かれている通りに2F(ダブルフリップ)+2T(ダブルトゥループ)を跳んだ。

そのまま、フワッと跳んだかと思うとスピンを始め回転したまま片手で上げた片足のブレードを背中で持ち上げ美しくスピンを魅せる。
そのスピンも全く変哲のない今までのスピンだった。

(なるほどね・・・)

蒼井は真珠の演技を見て確信した。

(どうやっても、楓の得点に届かないと悟り、もう無理して上のレベルのジャンプやスピンに挑戦する気さえ失せた・・・・完全に勝ちをあきらめたってことか・・・・)

だが、その時だった。

「・・・よし・・・・」

蒼井は少し離れた所での小さな小さな呟きを聞いて、そこに目をやった。
松山だった。
その、まるでパッしない松山の横顔は、なぜかうっすらと微笑がこぼれている。
蒼井はその不可解な表情に眉をひそめた。

「うーん 」

真珠の演技はスパイラルに入っていた。
審査員達も眉をひそめ、不思議そうな顔をした。

「高レベルの要素こそ少ないものの、なんと美しく安定感のあるスパイラルだ・・」

身を乗り出した審査員もいた

「先ほどのスピンもそうだったが・・・よほどの練習をこなさなければあんな安定感は出ない・・・まるでお手本のようなディープエッジな滑りだ・・・」

「何度か、他の大会でこの子を見かけたことがあるけど、もっと挑戦的な雰囲気だったわ、今日の演技はなんて・・・」

他の審査員達もみな同じように思っていた。

「なんと・・・・”けなげ”な・・・・」

蒼井は楓が抱えて離さなかった手を引き抜き腕組みをした。
そして無意識に組んだ腕の中で手を強く握る。

(なんなんだ・・・この違和感は・・・)

じぃっと真珠の表情に目をこらす。その瞳は明らかに目の前にある何かを全力で追いかける人間の瞳だ。

(なぜ・・・そんなに必死な・・・とても勝負をあきらめてる者の表情ではない・・・
なぜ?! 絶対に勝てないのに! )

その時、楓が壁からリンクに乗り出し呟いた。

「すごーい コブタちゃん。完全に曲にシンクロしてる・・・」

「! 」

蒼井は何かに気づいたように楓と同じように身を乗り出した。

「・・・まさか・・・・」

真珠は大きく手を広げ、またジャンプをした。
その必死の表情。必死の演技、そしてその安定感・・・・
もはや、退屈しているものなど、誰もいなかった。

「・・・・まさか・・・! 」

蒼井は・・・いや、審査員達にもそして観客もみな感じた。
その安定感に裏打ちされた演者の練習量を・・・いや・・・人生を・・・

”この子はこのために生きてきた”

誰もが真珠を応援したくなるような気持ちになっていた。

ブルッ・・・!

蒼井は逆毛が立つような電気が走ったような感覚を背筋に感じた。
そして、まるで恐ろしいものを見るように松山の方を見た。

演技表など、もうクチャクチャに握り締め松山は真珠を念じるように祈るように見つめている。興奮を押さえながら・・・
・・・まるで自分が演技しているように全身に力を入れながら。

(まさか・・・これを狙っていたって言うの?! )

蒼井は視線を真珠に戻した。
曲は架橋に入っていた。真珠も最後のステップに入っていた。

蒼井の鼓動は早鐘のように打っていた。

「・・・ピエトロ・マスカーニ・・・」

小さく震えながら、呟いた。

第九話

最終話

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2009年11月 9日 (月)

コブタの真珠 第九話

パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ!・・・・・・!!!!

楓の演技で感動した観客の興奮はまだ冷めない。演技を終えた楓がリンクから出ようとしていてもまだ拍手が止まない。
真珠の顔からは血の気が引いている。
圧倒的な技術、演技力・・・というより、シニア選手を含め、たくさんの選手を研究し観てきた真珠もここまで凄い選手を知らない。間違いなく楓はオリンピックに出ていてもおかしくない、それもその表彰台に乗っていてもおかしくないレベルだ。

「はぁー ただいまー!! 」

楓が息を切らして帰ってきた。蒼井はブレードカバーを渡すと急いでシューズにつけ真珠の元に近づき手をとった。

「コブタちゃん 見てくれた! コブタちゃんのために一生懸命、頑張ってきたよ☆」
「・・・う、うん」

真珠は答えるのもやっとだった。
楓は真珠の手を握ったまま、蒼井の方に振り返る

「先生! お腹減った うきー!! 」
「あーん・・・ 」

蒼井はジロリと楓をにらむ、しかし、口元は緩んでいた。
足元に置いてあったバッグの中からさっとバナナの房を取り出す。

「はい。」
「えー またバナナー?! 他のがいい!!! 」

楓はそう言いながらバナナをふんだくった。

「ほら 行くよ。」
「へ? ほほに?(どこに?)」
「教えただろ! 結果聞く場所。 キス&クライだよ」
「ふえ~?」

楓は面倒くさそうに嫌な顔をした。
蒼井は嫌そうな楓の衣装を掴み猫のように持ち上げ連れて行く
蒼井に持たれながら真珠の方に振り返り手を振る。

「はほへへー(あとでね~)」

真珠は全身に力が入らない・・・まるで、風邪で熱でもあるかのようにグッタリと体が重い。実力の差にも衝撃だったが、それより気になるのは結果だった。
真珠の頭の中は必死に過去のジュニア大会の最高点を思い出そうとしていた・・・

{ただいまの中山 楓さんの得点・・・・・}

会場にアナウンスが響く。
真珠は電光掲示板に振り向いた。久しぶりに動いた気がした。
背中が冷たい・・・・見ているだけで、こんなに冷や汗をかいたのは生まれて初めてだ。
{技術点 63.00点 構成点 65.60点

トータル 128,6 }

ワァァァァァァァァァァァァァ!!!

再び歓声が上がる。
キス&クライで蒼井が一人ガッツポーズをしていた。
楓はつまらなそうにバナナを頬張っていた。

真珠はヒザに力が入らなくなり一瞬ガクッと落ちた、だがすぐ立ちなおした。

「フリーだけで・・・・128点・・・・ 」

ジュニアのフリーは要素が12個と決められていてシニアより一個少ない。それなのにシニア大会のそれも世界大会並みの成績だ。

間違いなく全ての要素が最高レベルと評価されている証拠だった。
構成点も、平均8点以上という最高評価を得ているだろう。

ジュニアの世界ではたまにこういうことが起きる。
圧倒的天才の出現。理不尽なまでの才能開花。桁違いの点数を叩きだす新人選手が突然現れることがある。
あのM・A選手もそうだった。
彗星のように現れ、桁違いの成績で優勝を重ねていった・・・

そして、なんとなく真珠には予感のようなモノがあった。
サルの気持ちを理解するために行き倒れた楓。
小さい時から、ちっとも変わらない楓。
曲を聴いて人目も気にせず踊りだす楓。

楓は自分と、いや普通の人とは違うということが。

重い足をひきずって真珠は控え室の方に向かう。

『完全に計算が崩れた・・・』

更衣室に入るとすぐにいつも持ってきているネットブックを取り出し開く。
自分の予定要素数パターンと点数を出した。

『私のフリープログラムの予想スコアは75点台・・・未完成3A(トリプルアクセル)や、まだ成功率の低い3F(トリプルフリップ)+3T(トリプルトゥループ)に成功しても80点くらいだ・・・ショートの得点40点と合わせても120点。楓には8点足りない・・どうしたら・・・』

今から自分が出来る技の並べ替えでなんとか128点を超えられないか・・・
ルール上では、後半で出す要素は1.1倍になる。真珠はパソコンの画面上で何度も何度も並べ直す。

『どうしたら・・・128点を抜ける?!・・・・』

カシャカシャと誰もいない更衣室の中でキーを叩く音が響く。

会場では大会は進み次々に選手が演技をしていた。
だが、一番手の楓の演技の後で観客席はかなり静かになっていた。

その観客席の中で真珠の所属するクラブが固まっている席で
松山コーチは真珠の用意した予想と結果を照らし合わせていた。

「やっぱり・・・・」
「?」

他のコーチが松山の呟きに反応して目を向ける。

「真珠の予測が外れてる・・・・今まで、ほぼ百発百中という位だったのに・・・」
「え! うそ・・・」

松山の持っている予想の紙を隣から覗く。

「! 」

その時、現在してる子が突然ジャンプをミスした。

「あの子も・・・」

松山の額から一筋、汗が流れる。明らかに熱いからかく汗ではない。

「前の子も、その前の子も・・・自分のスケートを見失って、失敗の連続だわ・・
みんな真珠の予想よりかなり低い・・・」

予想の紙を下ろし、眉をひそめ観客席の一角にある階段の壁に寄りかかり他の子の演技を見る蒼井桜とその後ろでつまらなそうに。まだバナナを食べている楓を見た。

「この大会・・完全に壊されたわね・・・・中山 楓に・・・・蒼井 桜に・・・・」

(やっぱり・・・こうなったか・・・)

蒼井 桜は腕を組み壁に寄りかかったまま、大失敗を繰り返す選手達を横目で見ていた。

(”私達”のやったフィギュアは完璧な技術力の上で成り立つアドリブ・・・
楓はまだ短いながらも人生のほぼ全てをフィギュアスケートと感受性を育てることにあてている。 )

演技を終えた選手がまた失敗で泣きじゃくりコーチに抱きついている。

(こんな発展途上の子供達の前で、披露すべきではなかった・・・)

蒼井は組んでいた腕で自分の肩をぎゅっとしめ、視線を地面に向けた。

(・・・というより・・・・・もう見せるべきではないのか・・・)

大きくため息をついた。

(競うべき相手がいない・・・・)

足もとでバナナを食べている楓に目をやる。

(今ならまだ。 この子を普通にできるかもしれない・・・)

ほのかに蒼井は口をゆるめ、笑みを作った。

「楓、何食べたい? 」

楓は嬉しそうに振り向く。

「え?! 外食? ホントに!?? 」

楓は鼻息を荒くうっとりとしてヨダレをたらした

「松坂牛・・・・」
「無理!! どこで覚えたそんなもん・・・」

楓は口をとんがらせてブーイングをする。

(私の理想をこの子に押し付けた責任は・・・取らなければ・・・・)

すねている楓を見ながら、強い決意を瞳に宿らせる蒼井だった。
そしてまた、次の選手がリンクに入っていった。

更衣室。
ジーっとネットブックの動作音だけが響いている。
化粧道具が置かれる筈のテーブルにはクシャクシャになったメモらしきゴミがいくつも
転がっている。
パイプ椅子に座り、手をぶらーんとさせ、だらしなく背もたれに寄りかかり虚脱しきった
真珠が鏡の前の自分とずっと視線を合わせていた。
その顔は異様なほど白い。

『無理だ・・・今の私では、どうやっても届かない』

朝、練習したきり、スケート靴を履いたままだ。

『このまま2位通過しても、仮に東日本大会を抜け全日本大会に出場出来たとしても楓がいるかぎり、表彰台に上がれるのは残り2人。去年までのデータを見ると私の最高点でギリギリ4位。しかも他の選手も確実にレベルアップしてる可能性が高い。・・・なんとか一年以内に7級を取れてシニアに行けたとしても、もっとレベルの高い戦いが待っている。しかも今の混戦状態のシニア界で、グランプリシリーズに選ばれる新人の枠なんて一人がいいところ・・・
・・・・・・・・・・・私にはもう取れる椅子は・・・・・・ない』

真珠は静かにネットブックを閉じた。

会場の階段の壁に寄りかかりしばらく大会を見ていた蒼井は楓と共に足元に置いてあった大きなバッグを持ち上げた。そこには楓の着替えなど全てが入っていた。

「よし、忘れ物はないね?」
「え? 」

楓は座ったまま驚いて蒼井の顔を見た。

「もしかして、先生・・・帰る気? 」
「メシ、食べにいきたいんだろ? 」

蒼井はあからさまに面倒くさそうに眉間にシワをよせた。楓と視線を合わさない。

「ダメだよ! まだコブタちゃんの見てないもの。 昨日見逃しちゃったし・・・」

楓も眉をひそめ口をとんがらせて言った。
一瞬、楓を見てすぐ横の方に視線を移す蒼井が答えた。

「もう今日はまともな演技の出来る子なんていないよ」
「?  ウキャ?(※サル語 なぜに?)」

イラっとした蒼井は楓の右手首を掴み、強引に立たせようと引っ張った。

「とにかく行くんだよ! 」
「やぁ~だぁ~!!!! 」

ズズっと体の軽い楓が動く。その瞬間、楓は思い切り掴んでいる蒼井の手に噛み付いた。

「痛!! 」
「フ――――――――――!!! 」

獣のように髪の毛を逆立てて威嚇する楓。
蒼井は噛まれた手を摩りながら楓をにらみつけ、そしてまた視線を外した。
そして、大きくため息をついた。

「じゃあ、はっきり言うけど・・・・」

ドスンっと重そうなバッグを一度、床に下ろした。

「あの鈴原真珠って子、ありゃダメだよ。」

蒼井は不機嫌そうに更に眉間にシワが寄った。

「発育が早いとか、そんな事だけじゃない。 勘が悪い。悪すぎる。3A(トリプルアクセル)は特別にしたって、他のジャンプだっておそらく相当練習しないと跳べなかったはずだ。自分の体の重心やら軸やらの感覚が希薄なのさ。そういうのはある種、感覚で跳ぶもんなんだ。アンタみたいにね。 それに、14歳で6級持ってる子が昨日見た限りじゃ3回転もおぼつかない。確実じゃないから、皆跳ばないだけで、成功率70%くらいの3回転は皆、いくつか持ってるもんだ。たぶん、あの子は一つもない。ギリギリ、トゥループでいけるかどうか・・・・はっきり言って才能が無い。 」

蒼井は一度も楓と視線を合わさず言い切った。
”コブタ”の名は今まで楓から何度も聞いていた。楓にとって真珠がどんなに大切に思っている友人か、蒼井にはわかっていた。
だから、こんな台詞を本当は言いたくなかったし、それを聞いた楓の顔も見たくなかった。

「可哀想に。あのコーチが無能なのさ。発育の事といい、感覚のことといい、
あのコーチは大事なことを、おそらく解っていて言わなかった。もっと他の育て方もあったろうに・・・それにもっと早く言っていればもっと早くあきらめられていた。」

楓はアグラの崩れた格好で両手に地面を手をつき、茫然と聞いている・・・
・・・・と思ったら、突然、ふきだした。

「プ――――!!! ブハハハハ 」
「な、何笑ってんだよ!! 真剣に話してんのに! 」

笑い出した楓をやっと蒼井は見た。

「だって・・・・プハハ・・・当たり前なんだもん・・・」
「あ? 」

蒼井は楓を見て驚いた。
楓は笑ってなどいなかった。、今まで蒼井が見たことのないような顔だった・・・

「昔から、トロくて、太ってて・・・いつもみんなから、『いつ辞めるの?』、『お前には無理。』って言われてて・・・いつも泣きべそかいてて・・・」

その頬は少し赤らみ、すわったような目つきでぼんやりと会場の方を見つめていた。
大好きな友人を語るような表情ではない・・・それは不安と情熱が絡み合ったような表情。

「でも・・・”居る”の。 なぜかいつもコブタちゃんは、そこに居る。」

楓の表情は明らかに”ライバル”を見ている顔だった。

「いつも不器用に、いつも泣きそうに、コブタちゃんは”そこ”居る。
いつも”りんく”の上にいるの・・・」

蒼井には楓の言っている意味がよく解らなかった。

第十話

第八話

目次

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2009年11月 1日 (日)

コブタの真珠 第八話 フィギュアスケート小説

会場の観客の視線は完全に楓に集中していた。

その氷上の。楓のあまりの切なさが、見ているモノの胸をつかむ。
そして、楓は再び跳んだ。
3F(トリプルフリップ)+3T(トリプルトゥループ)!
またもや、完璧なまでの技だ。

まるでそのジャンプを祈りに変えているかのようだ。
完璧で美しいその贈り物を神に捧げても、何も答えてくれない神。
まるでそんな印象を受けるジャンプだった。

もう観ている者は技のレベルなど気にはしていない。
楓の”行方”しか観ていない。
そのまま楓は片足でスパイラルに入った。

「なんという伸び・・・なんと、しなやかで滑らかなスパイラル・・・」

審査員の一人がつい呟く。
真珠のコーチ、松山も楓の演技に圧倒されていた。
しかもそれは、やはり技の凄さにではなかった。
その表情にだ。

「なんなの・・・この”切なさ”は・・・この”寂びしさ”は・・・」

観客の一人がどこかで呟く。それは皆が感じ取っていた。

”不安 ” ”寂しさ”

そんな感覚が観ているもの全員の胸に突き刺さる。
まるで、自分自身も一人ぼっちでいるような錯覚に陥る。

真珠もその一人だった。
だが、真珠の中で、ショパンの”ノクターン”は、こんな寂しく悲しいものではなかった。

「普通・・・”ノクターン”って言ったら・・この可愛いメロディーにのせて”妖精”とか”乙女”をイメージするような曲なのに・・・」

楓のそれはまるで違う・・・人生に未来があるような者の表現ではない。
明らかに楓は泣いていた。観客にはテレビカメラでズームアップでもされない限りその涙はリンクの中の楓からハッキリ見えるようなモノではない。
だが泣いているのだ。それが観客には感じられた。
その涙が観ているものの同情を誘う。

「なんでこんな”切ない”・・・まるで家に帰れない子供のような・・・・」

そんな事をつい呟いた時、後ろで蒼井が答えた。

「・・”ショパン”さ・・・」

真珠は蒼井をチラッと見た。
蒼井は楓を目で追いつつ興奮を隠すようにあえて冷静な表情を作っているように見えた。
証拠に明らか瞳がらんらんと輝いている

「作曲者 フレデリック・ショパンは1830年 20歳の時、音楽活動のため故郷ワルシャワを旅立つ。 しかし、その直後。」

真珠は心の中でショパンという人物を想像した。

「ワルシャワは革命を起こし新政府を樹立。しかしほんの数ヶ月でロシアの大群に陥落。
後・・・永きにわたりロシア帝国に属州として蹂躙されるんだ・・・」

真珠は目を見開き楓を見た。そう・・・想像したショパンが楓にしか映らなかったからだ。

「ショパンは二度と家族と会えぬまま、その短い生涯を終える・・・」

楓は大きく天を仰いだ。

「一度の視聴で感じたんだ。 楓は・・・ショパンの”望郷”を・・・」

もう会場内は楓の”切なさ”釘付けだった。

見入って危うく審査を忘れそうになりながら、メモを取っている審査員はその曲の解釈より別のことに注目していた。

「それにしても・・・なんという”みずみずしい”演技なんだ・・・」

松山コーチも同じように呟いた。

「普通の選手が完成された料理だとしたら・・・この子はまるで、もぎたての果実・・・」

沢山の選手を分析してきた真珠の目にも明らかに楓の滑りは異質だと感じていた。

「まるで・・はじめて見る感覚だわ・・・次に何が起きるか予想もつかな・・・・! 」

はっとして、真珠はとっさに口をつぐんだ。 

気づいたのだ・・その異質の正体に・・・
体が一瞬硬直しビクッと震えた感覚だった。
背後で蒼井が興奮を抑えきれない様子を感じてとれた。

待っていたのだ。 その真珠の疑問を・・・その驚きを・・・

「そんなの当たり前でしょう・・・あの子自身、その刹那、何を踊るかなんて決めていないんだから・・・」

蒼井は冷静さなど装えず、高揚し頬が紅くそして汗まで出ていた。
まるで沸々と体の中でエネルギーが沸騰し湯気が出ているようだ・・・
長年の思いが今、実現しているのが解る。

「ずっと以前から思っていた。 フィギュアスケートは”氷上の美”の競い合い・・」

楓の演技は曲と共に架橋へ、ちいさいジャンプからスピンに入る。

「だったら、もっと思うがままに・・・
 もっと感ずるがままに・・・」

スピンはやがて美しいドーナツスピンへと変化していく。望郷の思いがピークに達した。

「・・・・その感性の筆先が自由にキャンバスを描くが如く・・・・」

その言葉で真珠の感覚の中では、楓が七色の筆とともに白いリンクの中をカラフルに描いているかのように見えた。

「圧倒的表現力・・・・・インスピレーションフィギュア!! 」

蒼井の一言と同時に、楓がスピンを止めた!
汗がカクテル光線で美しく散る。
楓は両手を仰ぎ、左手を胸に右手を光り輝く天にかざした。
そして、天に向かって笑顔を見せる。

それは、天国で再び家族に会えたショパンの安堵の笑顔だった。

一瞬の沈黙。
楓はまだ、天を見ている。
やがて、・・・はぁ・・はぁ・・・と楓の息を整える声が静寂の中、響いた。

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!

一斉に歓声が上がる。拍手も鳴り止まない・・・
観ているもの全員が感動に包まれた証拠だった。

松山は茫然とリンクの中で、恥ずかしそうに礼をする楓を見ている。
蒼井は、再び冷静を装い、口元だけでわらった。だが胸に組まれた腕の中で拳は感動と達成の喜びで強く握られ震えていた。

真珠は立ち尽くし、その場を動けない。
それはあまりにも圧倒的なレベルの差だった。

第七話

第九話

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2009年10月31日 (土)

コブタの真珠 第七話

東日本フィギュアスケート大会 関東ブロック 二日目。
フリープログラムの予定日。
空は晴れわたり雲は大きい塊がゆっくりと流れている。
10月も終わりだというのに妙に暖かい朝だ。
スケート場にはとなりの公園まで花壇が続いており、沢山のパンジーがゆるい風に揺れている。

会場は昨日に引き続き、選手とコーチ、クラブや応援にかけつけた家族、友人たちでザワザワとごった返している。

「おはようございます!! 」

真珠は会場に入り松山コーチら所属するクラブの面々を見つけるやいなや、ズンズンと近づきいきなり大きな挨拶をした。そしてそのまま、会場に入る。どこか鼻息が荒い感じだ。

「お、おはよう・・・」

松山は迫力ある真珠の気合で無意識に道をあけた。

「まだ、あきらめてないみたいだよ・・・金メダル級の負けず嫌いだね。あの子は」

真珠の来た方角から蒼井がまだ眠気から覚めない楓を脇に抱えながらやってくる。
楓は寝息まで立てている。昨日、鈴原宅に一晩止めてもらったので、会場まで真珠と一緒に来たのだ。

「・・・そうですか・・・」

松山は複雑な顔をした。蒼井は会場の前に沢山のクラブの塊がいることで、避けて会場に入らなければならない事を思い軽くため息をつき、どこから入るか辺りを見渡しながら言った。

「ま。 大丈夫だろ」

ちらっと松山は蒼井を見た。

「あーゆー子は思い知れば勝手にあきらめるさ・・・」

そう言うと蒼井も松山たちを後にして会場の入り口に向かう。

「起きろ! サル!! 」

入り際、楓の頭をグリグリすると、楓は足をバタバタさせた。


会場の中もスタッフや選手、家族、コーチが沢山いる。
昨日のショートを思い通りの成績を取れなかったものの、一応トップで通った真珠は
何人もの選手たコーチに見られた。

試合の直前まで選手と動向したり、もしくは近くにいるコーチが多いが、真珠と松山コーチは、あまりギリギリまで一緒にいる事が少ない。真珠が話しかけられる事を嫌うのと、試合直前は何も言わない方が良いという松山の考え方の一致である。

更衣室に入ると真珠はすばやく着替えの準備に取りかかるべく、ロッカーを確保しバッグを開けた。そこには真珠の母親は作ってくれた衣装、化粧道具など色々なものが入っていた。真珠は上着を脱ぎ始める。

『とにかく勝つ。』

ロッカーに上着やスカートを入れ衣装を頭から着始める。手早い。

『この冬に技術面をもっと向上させ7級を取り、そして一年後に、シニアの代表として世界大会に出る。』

腰のあたりのシワをのばす。終わるとロッカーに鍵をかけ、大きな鏡張りになっている化粧席の椅子に座り舞台化粧用の箱を取り出し広げた。

『そのためには、このブロック予選、次の東日本大会を抜け、全日本ジュニアでなんとか表彰台に上り・・・全日本の強化選手に入らなければ・・・』

すこし力が入ってアイメイクを失敗した。ティッシュでふき取る。そこは14歳だ真珠はあまりこの舞台化粧が得意ではない。他の選手もほとんどが親やコーチにやってもらっている子が多い。

『かなり険しいルートだけど、可能性はゼロじゃない・・・』

薄いオレンジがかったリップクリームを塗りながら、じっと鏡の自分を見つめる。
自然と拳に力が入った。
すると鏡の中で更衣室のドアがまた開いた。

「お・・・おはよコブタちゃん・・・」

楓の声だ。真珠は振り返った

「おはよう! やっと起きたの楓・・・キャーーーーー!!! 」

思わず真珠は悲鳴を上げた。楓は昨日あれから何も食べさせてもらえず、げっそりとしていた。さの様があまりにミイラのようで肌がカピカピで怖い。
辺りの人たちの視線が真珠と楓に集まった。

「な・・・なにか食べるものを・・・」
「あ、あんた昨日から何も食べてないの?」

ヒューヒューと化け物のような息使いの楓の後ろから蒼井が更衣室に入ってきた。

「蒼井さん! これじゃいくら何でも・・・」
「あー。 忘れてた。」

蒼井は持っていたバッグの中からバナナの房を取り出した。

「はい。サル バナナよ」

蒼井がバナナを楓に近づけるとまるで獣のようにバナナを奪い取り誰にも取られないように唸りながらムシャムシャとガッついて食べだした。

「け・・けだもの・・・」

真珠は異様な光景に呟いた。

「ほら! メイクするから!!! 楓、シッダウン!! 」

その号令に楓は一瞬ビクッと体を硬直させ、すぐに正座した。

「おハンド! 」

楓は右手を差し出された蒼井の左手にのせた。ハァハァ言っている。

「よーしよし。」

楓の頭をワシャワシャした。

「サルというより・・・ドッグ・・・」

真珠は引きつった笑いをして2人を見ていた。


真珠は全ての準備を整えていたが、滑走順は一番最後だったが、準備は一番最初に終わったようだ。楓は衣装に着替えていた。”楓”の名にふさわしい赤い生地が主体でオレンジや黄色のカエデの葉がスパンコールでいくつも形作られた秋を感じさせる衣装だ。
まだバナナを食べながら鏡の前で蒼井に髪をセットしてもらっている。
真珠はカエデの隣に座って話しかけた。

「で・・・楓は今日のフリー、何を演るの?」

真珠の質問にバナナで口を頬張りながら不思議そうな顔をしている。楓は後ろの蒼井の方に振り向く。

「先生、今日何やるの? 」
「動くな!! 」

一生懸命楓の髪型をセットしている蒼井はイラっと言葉を返しながら、バッグの中からMP3の音楽プレーヤーを取り出した。

「これだよ」
「ありがとー」

楓はプレーヤーを受け取るとルンルンと鼻歌まじりで再生をする。

「わー いい曲だねー」

楓はじっくりと曲に聴き入っている。
その光景に真珠は青ざめる。

「ま、まさか 今日やる曲、初めて聴いてるわけ・・・・じゃないですよね?」

おそるおそる蒼井に聞く真珠。また手を止められた蒼井は不機嫌そうに真珠を見る。

「初めてだね・・・たぶん 」

蒼井は口に沢山の髪留めを加えながら言った。
真珠はハッとなり気づいた。

『そうか・・・楓は迷子状態で、ずっと買えってなかったんだった・・・』

再び、視線を楓に戻す。バナナも食べ終え曲を聴き入っている楓は極めて気分の良さそうな顔をしている。真珠は鏡ごしに蒼井を見た。

「あの・・・前から、ちょっと思ってたんですけど・・・蒼井さん、ちゃんと楓にフィギュア教えてるんですよね?」
「あ~ん・・・」

蒼井はムカッとした顔で真珠に顔を向けた。

「いや・・・ちゃんとしてるならいいんですけど・・・楓がブラジル行っただのライオンと戦っただの冗談ばっか言うから・・・」

楓に向き直った蒼井はほのかに笑った。

「全部、本当だよ。 この子と世界中観てまわってる・・・」
「な・・・・」

楓の冗談だと思っていたので、真珠はビックリして一瞬言葉を失った。

「何のために・・・! フィギュア教えてるなら まだ理解できるけど、要素も変な名前で覚えてるし直前まで曲も聞かせてないなんて・・・」

真珠は本気で楓が心配になってきた。小さい頃から変わらないと思っていた楓だったが、14歳の真珠と同じ歳にしてはあまりに常識が無さ過ぎる・・・
蒼井はやっと楓の髪のセットが終わったらしく満足そうに眺めた。

「なんでそんな無茶苦茶なことさせてるんですか! この子 九九も言えないんですよ・・・」

まるで聞いてないような表情の蒼井に真珠は若干、怒った。

「この子の人生潰す気ですか!! 」

思わず大きな声で口走っていた。だが真珠にとって本気で楓を心配した本音の言葉だった。蒼井は腰に手をやり、うつむき加減で大きくため息をつく。

「余計なお世話。」

表情のない顔で冷たく言った。

「蒼井さん!! 」
「うるさい子だねー 」

頭をかきながら蒼井は余った髪留めやブラシをバッグにしまう。

「あんたさぁ・・・人の心配してる場合? 」
「え?」

蒼井はジーっとバッグのチャックを閉めた。

「たぶん、そのままじゃ 優勝なんて出来ないよ」
「・・・・え・・・・」

突然のその言葉に真珠は反応できない。僅差ではあるがショートでは1位だった。
今日のフリーだって優勝に一番近い位置にいることは明らかだ。

「なんで・・・それいったいどういう・・・」
「ほら! この子 今日一番手なんだから 邪魔! 」

蒼井は何回も繰り返し曲を聴いている楓を立たせ更衣室から出る。
楓は曲を聴いたまま真珠に笑顔で手をふり出て行った。

『何? なんのこと? 私の計算に狂いでも? 何か弱点でもあるの? それとも・・・』

ふと、思いつく。3A(トリプルアクセル)だ。 巻き足と言われ、フラツキも目立ち、とても完成しているとは言い難いのは確かだった。しかし失点されようが、どう思われようが、3回転半回って転ばなければ認定はされる。真珠は今日も3Aを飛ぶ気でいた。それを見透かされたのかもしれない・・・と思った。
しかし、大事な試合の前でこんなに不安になるようなことを言うなんて・・・
確かに教え子である楓は真珠の弁当のせいで食べすぎてしまい、ショートを棄権という最悪の結果で、この大会に成績は求められない状況になってしまった。

『でも、蒼井さんはこの世界のトップレベルで戦っていた人・・・上の世界ではもっとシビアでデリケートな精神的な戦いも当然あるのかもしれない・・・』

心の中でそう思いながらも真珠は蒼井のことをあまり良く思わなくなりはじめていた。

会場は昨日よりも観客が多くなっていた。今日は日曜で昨日よりこれる家族も増えているのかもしれない。リンクでは楓を含む最初のグループ六人の公式練習をしていた。
だが楓は人が滑るリンクで一緒に滑ること自体、かなり久しぶりなのに比べ、大会自体も初めてなのでマゴマゴしている間に時間が終わってしまう。
選手が次々にリンクから出ていくので慌てて帰ってきた。

「今の・・・何?・・・なんでみんなで滑ったの? 」

楓は不思議そうに蒼井に聞く。

「お前さぁ 教えたろ。演技前に最後のチェックでジャンプとかステップとかするって
ったく何もしないで終わらせちゃって・・・ 」

少し乱れた楓の髪を直す蒼井。されるがままで楓は沢山の人が入っている観曲席を見つめていた。

{ただいまより、東日本大会ブロック予選、関東大会 二日目 フリープログラムを始めます}

アナウンスが会場全体に流れる。
楓はラジオ体操のような準備運動をしはじめた。

「楓! 」

真珠が声をかける。

「コブタちゃん☆」
「いい? 気楽にいきなよ? 失敗したって棄権したって何にも恥ずかしくないからね。 昨日だってしてるんだし、当日に初めての曲聴かせる方がすっごく非常識なんだから・・」

真珠は心底、楓を心配していた。

『大会を経験させるにしても酷だよ・・・いくら変人の楓だって、こんな大舞台で笑い者にされたら絶対トラウマになる・・・・ 』

蒼井は聞こえていたが何も言わずリンクの壁に手をつき観客席の方をぼーっと見ていた。
楓はじーっと真珠の顔を見る。
そしてニッコリと笑った。
真珠に声をかけられた事がうれしかったようだ。
楓の顔にすこし赤みが出る。

「ありがとう! コブタちゃんのために頑張ってやるから、見ててね! 」

{エントリー1 中山 楓 さん }

楓の出番を知らせるアナウンスが流れた。

「ほら、出番だよ 楓! 」

蒼井がアゴで指図すると楓はスケート靴のブレードカバーを外し勢いよく出て行く。

『楓 』

その後ろ姿をじっと真珠は見つめた。

「あ あの子 昨日突然棄権してモドシちゃった子だよ」
「へー 今日は出るんだ・・・ハハハ」
「ガンバレー」

観客席から同情の声と笑い声がチラホラ聞こえる。
後に控える選手達も更衣室のモニターなどで楓の演技を見ている。
昨日、あれだけ失敗した子、今日は何をやらかすか・・・こういうデリケートな戦いの中で人の失敗ほど、安心し自信をつける材料はない。
楓の次の出番の選手までリンクに近づき見ていた。

ザワつくムードの中、みんなの視線を楓はリンクの中央で止まり、ゆっくりと目を閉じた。


会場に曲が流れ始める。
真珠はすぐにその曲名がわかる。それは世界の大舞台で自分がやりたかった・・・
幼い頃テレビで見た冬季オリンピック、楓のコーチ蒼井桜の演技・・・・

ショパン”ノクターン(夜想曲)” 第二番変ホ長調

楓はゆっくりと瞼を開けた。
曲調にぴったりのゆったりした動きで背後に滑り出す。
腕を優雅に羽ばたかせ胸にもってくると何かを訴えるかのように両手を下から天に仰ぐように持ってくる。その自然な指先までの動きが見るものに楓の表情を注目させ
その楓の切ない表情に沈黙をもたらす、同時に引き込まれる。

楓は背後の滑りから前方に向かう滑りにスイッチし左足に体重をのせた。
しかしそれは、枯葉のような重さしかないのではないかという楓の体の印象から
ただ左足を曲げ一瞬かがんだようにしか見えない。

次の瞬間、左足つま先で踏み切り跳んだ!!

空中で美しく楓が3回転半し優雅に着地した。
3A(トリプルアクセル)だ。
だがその超難易度のジャンプより、切なさをを増した楓の表情。
真っ白なリンクの中の優雅で切ない表情の少女の行く末に観客は一気に魅入った。

『あっさり・・・・』

真珠は青ざめた。

『・・・・・上手い・・・・・』

蒼井は楓の出だしを妖艶ともとれる微笑で見つめていた。

第六話

第八話

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2009年10月27日 (火)

コブタの真珠  目次 フィギュアスケート小説

Taitorru2 『コブタの真珠』

 

目次

第一話

第二話

第三話

第四話

第五話

第六話

第七話

第八話

第九話

第十話

最終話

作者: かよきき

現在は全く別の仕事をしているが、すこし前まで別名義で ”描く”お仕事も少しだけ経験。

ネットでの新しい作品の形を模索中

あらすじ

才能ってなんだろう? 14歳のフィギュアスケーター鈴原真珠は、コーチにも親にも引退勧告をされてしまう。どうしても世界の舞台をあきらめきれない真珠はみんなに”才能”を見せれば考えが変わると考えるが・・・努力と葛藤、笑いと涙、そして感動の本格フィギュアスケート小説 「コブタの真珠」 作:かよきき

華やかなフィギュアスケートの世界の裏の厳しい現実。

その中であえぐ選手の苦悩と喜び、そして・・・・

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本格フィギュアスケートストーリー

コブタの真珠 第六話 さし絵入り フィギュアスケート小説

Taitorru2 Rouka6

ショートプログラムが全ての選手が終了し観客達が順番に帰っていく。
明日のフリープログラムに向け、ほとんどの選手達は早々に帰った後だ。最終グループの者達は自分の順位が気になり最後まで他の選手の演技を見ていたようでリンクから更衣室までの廊下を足早に戻っていった。

その一群がゆっくりと歩いていた蒼井を追い抜いていく。
中には元オリンピック銀メダリストの蒼井に気づく者もいたが、その不機嫌な顔を見ると誰も声をかけられずに、更衣室に入っていった。

Koukai6 「関係のない子にあんな事を・・・私の出る幕じゃなかったのに・・・」

蒼井は握った拳でまた壁を叩いた。その痛みでまた腹がたつ。
猛烈な後悔が蒼井を襲っていた。
”ジャンプが跳べなくなる” ”才能の淘汰”
真珠のためを思ってのことだった。だが事実を知れば何かが変わるという話ではない。
松山に怒鳴られたことで、熱くなっただけなのは自分がよくわかっていた。
まして、その前に松山を見かけた時、彼女は泣いていた。二人の間に深い絆のある証拠だったのだ。 それを・・・・

.

.

.

                  ★

更衣室に入ると、まだ着替えの終わっていない選手がいた。一斉に蒼井に注目する。
楓は着替えどころか、ベンチに座り口をとんがらせて珍しく落ち込んでいた。
蒼井は楓の背後に回ると、いきなり頭をはたいた。

「まだ着替えてないのか・・・あんまり手間かけさすなよ・・・」
「先生・・・」

楓が振り返ると蒼井は更衣室を見渡していた。

「コブタは?」
「先、帰ったよ。 これ先生にって・・・」

真珠のためにとっておいた弁当の残りがビニールに入っている。楓はそれを蒼井に差し出すと、蒼井は目を細めてそのビニールを見つめた。
おむすび一個と玉子焼、唐揚が二個がグチャグチャになっていた。

「・・・・・」

蒼井はそのビニールを大事に受け取った。

「お前、コブタん家、知ってるよな?」
「ウキ?(※サル語 『はい?』」

                                                                ★

Fairesu6

.

「いらっしゃいませー」

.

.

土曜のファミレス、夜七時すぎ。店内は家族連れや学生などで混雑していた。
窓側の四人がけのテーブルに一人で真珠は座っていた。さすがに着替えは済んでいた。
過ぎ行く車をボーっと眺めている。

Keki6

.

「お待たせしましたー」

.

.

.

.

ウエイトレスが運んできたのは特大のショートケーキだった。
今月は秋のスウィーツフェアでショートケーキ、モンブラン、ミルフィーユなどの特大サイズが500円でコーヒー付きなのだ。
何を隠そうショートケーキは大好物。
真珠は生唾を飲み込んだ。

「いつぶりだろう・・・ケーキ」

食器ケースからフォークを取り出し先っぽの生クリームをたっぷりとすくった。

『今まで太るのを気にして一個まるごと食べたことなんて何年もなかった』

Hauhau6

口の中に入れる。
瞳が輝く。口の中に広がる甘みが何とも言えない幸せをかもしだす。

.

.

.

『でも、もうそれも終わり・・・』

一気に飲み込むのはもったいない・・真珠はその一口目をまだ味わっている。

『フィギュア辞めちゃえば・・・全部終わり』

おかわり自由のホットコーヒーがゆったりと湯気を出している。

『朝早く起きる事も・・・・友達の遊びの誘いを断る事も・・・全部から開放されるんだ』

真珠は二口目を刺した。今度はスポンジケーキを通り皿の底までフォークがついた。

”もうすぐ、あんたはジャンプが跳べなくなるんだ”

蒼井の言葉を思い出す。

Mousugui6「・・・・・・」

真珠の手はその二口目を刺したまま、止まっている。

「もうすぐ・・・」

.

.

Mousugutte6

 『”もうすぐ”って いつだろう・・・? 』

真珠は今日の自分の演技を思い出した。

『曲りなりにも私は今日、3A(トリプルアクセル)を成功させた・・・
もしその”もうすぐ”の間にもう一つ3回転ジャンプが降りられるようになったら・・・』

ガタッ! 突然、立ち上がった真珠を数人の客が見た。

『いや・・難易度の低いトゥループなら、たぶんイケる・・・ということは
3回転ジャンプを二つ・・・7級の合格が圏内・・・・』

そのまま請求書と荷物を持っていそいそと真珠はレジに向かう。

『シニアの出場資格は15歳以上。 ということは、私の成長があと一年持てば・・・』

真珠は思い切りファミレスのドアを開いた。

『あの目標だった世界のトップの舞台もまだ可能性がある・・・・』

「ありがとうございましたー」

ウエイトレスがテーブルを片付けにくる。
そこにはフォークが刺さったままのショートケーキとまだ口をつけてない暖かいコーヒーが残されていた。

                                                               ★

Ie 自宅にたどり着いた。 玄関には明かりがついている。
真珠は玄関を開けるのをためらった。
会場から松山コーチたちに何の挨拶もしないまま出てきてしまった。コーチが心配して連絡をしているかもしれない・・・・もしかしたら怒られるかもしれない・・・・
そう思ったのだ。
一息、深呼吸してから勢いよくドアを開けた。

「ただいまー 」

玄関に見知らぬ靴と、朝、楓に貸した靴があった。
どういうことか解らぬまま靴をぬぎ廊下からリビングのドアをあけた。Tyann6

♪チャン チャン チャカ チャカ ♪
リビングでは父、正則と母と、そして蒼井桜が酒盛りをしていた。
蒼井はどれだけ飲んだのか、箸で茶碗を叩きながら笑っている。
正則もそれを見て大うけだ。母も顔を赤くしてつまみを運んでいた。
あこがれの選手、蒼井桜とは思えない

「な・・・何してんですか! 」

人が深刻に帰ってきてるのに大人は酒盛りだ、真珠はムショウに腹がたった。

「おお 真珠! あの蒼井選手だぞ! 本物だぞ本物!! 」

正則はハイテンションで蒼井を指差した。
蒼井は酒で赤くなった顔を真珠に近づけた。あまりの酒臭さに真珠は鼻を手でおおった。

Douzodouzo6

「どーも はじべばして 蒼井ですぅ」
「いやぁ本物は美人だよねー。」
「あらやだん もう お父様ったらお上手・・・、どうぞ、どうぞ♪」

そういうと蒼井は父の隣で手酌した。
まったく成り行きが見えない真珠が立ち尽くしていると足元から声がした。

「コブタちゃん・・・おかえりなさい」
「・・?! 楓? なにしてんの? 」

楓は布団でぐるぐる巻きにされ床に放置されていた。

.

.

.

Guruguru6「ぐ・・・ぐるぐる巻きの刑・・・先生が罰だって・・・」

きゅるるる・・・楓のお腹のあたりから空腹の音がなっている。

「先生ー お・・お腹が空きました」
「あーはーん? ゲロ娘が空腹? 」

蒼井は出されているマグロの刺身を一切れ端で掴み楓の口元まで持ってくるb。

「よし! あーんしてみ・・あーん」

楓が雛のように大きく開け、刺身が口の中に入ったと思った瞬間、蒼井はさっと引っ込自分の口の中に刺身を入れた。

.

.

.

Urururu6 「おほほほほほ」
「ぜんぜぇぇ・・・・」

楓は子犬のような顔をして泣いた。
真珠はあきれはて言葉もなかった。 だがこんなバカ騒ぎに付き合ってられない。

.

.

.

「あの私、明日も早いので、お風呂入って先に寝ます。」
「あ、ついでにこのゲロ娘も連れてって・・・」
「メシ! メシ! メシ! 」

真珠は仕方なく布団に包まれ楓をそのまま引きずった。

「あ、そんな・・・せめて、一口~・・・」

楓が引きずられた跡にヨダレの線が出来ていた。

バタン! とリビングのドアが閉まる。
その瞬間、蒼井と真珠の両親は一斉にため息をついた。
蒼井は、ドスンと椅子に腰掛けた。

「すみません・・・一言誤りに来たのに・・・言いづらくて・・・」

蒼井はグラスに入ったビールを一口のんだ。

「いえ・・・そういう事はハッキリ言って頂いた方がありがたい。」

正則は目線をテーブルに向けピーナッツをいじりながら答えた。

「本当に・・・情操教育と思ってやらせただけだったんですよ・・・本当に・・・」

ピーナッツが、パキッと音を立てて割れる。

Titihaha6 「本当に・・・あの子はよく頑張った・・・」

正則の後ろで真珠の母が正則の肩にやさしく手をかけていた。
その手を正則は握った

「母さん、明日の仕事はなんとか休むよ。一緒に真珠を観に行こう。」
「ええ」

2人の納得した笑顔に覇気は無い。

.

.

「すみませんでした・・・」

蒼井は残っているビールを一気に飲み込んだ。

                                                              .

.

                                                                    ★

Suu6 チッ チッ チッ チッ・・・・

Nn6真っ暗な客室の時計は11時を過ぎていた。結局、蒼井も鈴原宅に泊めてもらっていた。
真珠の両親も酒が入ったせいか早めに就寝したようだ。

静かな夜の時間。
酒のせい寝つきが良かったはずの蒼井だったが、小さな音が気になって目が覚めた。

「カチャ カチャ カチャ カチャ・・・・」

時計の音かと思っていたら聞こえてくるのは部屋の外からだ・・・
気になった蒼井はトイレに行くふりをして様子を観にいこうと決心し布団から出た。
真珠の母にブカブカのスウェットを借りて来ていたが、寝ているうちに下は脱げてしまって下半身は生足だ。

戸を開け音の方に向かう。 その音は二階から聞こえる・・・・
家族がどこに寝ているかは当然知らないが、おそらく二階は家族の寝室だ。
蒼井はためらったが、ゆっくりと階段を上がった。

                                                                ★

Ierouka6_2

二階にあがると、かすかに灯りが洩れている部屋がある。

「カチャ カチャ カチャ・・・」

蒼井は恐る恐るその部屋をのぞいた。

.

.

.

Pasokon6 そこには学習机のパソコンに向かって必死に何か作業している真珠がいた。
机の隣のベッドでは楓がぐっすりと眠っている。

ギイィィィ・・・ 蒼井の不注意で少しドアが開き音が出た。
その音に真珠は気づき振り向いた。

「あ・・・起こしちゃいました? 」
「いや・・・」

見つかった蒼井は、覗き見していたせいか、申し訳なさそうな顔して部屋に入った。

「蒼井さん・・・」

真珠は使っているパソコンの画像を嬉しそうに見せた。

Itou6

「あの元祖 3A(トリプルアクセル)の伊藤みどりさんは身長が145cmしかなかったのに、体重は45キロもあったんですよ! 身長の割合からしたら、今の私よりも5キロも重かった・・・」

真珠は自分が成長し体重が増えたあと、同じような身長と体重の割合で成功した選手の記録を探していたのだ。 
蒼井は遠目にパソコンの画像を見ながらため息をついた。いくら身長と体重の割合が未来を想定した真珠の体と同じ選手を探した所で、成長過程違う以上、やってくる壁の大きさ・・・つまり、体の重心が変わってしまうという度合いはかなり違うからだ。
それを真珠に駄目押しして言うことは簡単だ。しかし、蒼井はそれを今日、強烈に後悔したばかりだった。そして明日はまだフリーが残っている。

6

「それは・・・・」

適当にお茶をにごそうとパソコンから目をそらした。
薄暗い部屋の壁が目に入る。そこには何かメモが貼ってあった。

《スピン時の足の角度165度》
スピンでレベル4を獲得している選手の美しいスピンの写真が添えられ、赤ペンで角度が測られている。

Kabe2_6 その横にはジャンプの種類別の点数表がある。 そこにジャンプごとにチェックがしてある。おそらく真珠の出来るジャンプだろう。
その上にはステップの点数表。その横にはGOEの評価の基準がこと細かに書かれている。その横には・・・・

蒼井は薄暗い部屋の中を見渡した。

Ban6Nannnano6

そこには、無数のメモと資料、写真と図。フィギュアスケートのあらゆる角度からの情報が、張られていたのだ。
そのオビタダシイ数に不気味ささえも感じる。
蒼井は一歩下がった。 
・・・・・・たじろいだのだ。

(な・・・なんなの・・・この部屋・・・全部フィギュアスケートの資料・・・)

蒼井は改めてパソコンに向かう真珠の後ろ姿を見つめた。

「”まだ”・・・」

蒼井は一瞬、震えた。
後ろから一瞬口の形が見えた。 
笑ってる・・・

.

.

.

.

.

Mada6

「私・・・”まだ”イケますよ・・・」

.

.

.

.

蒼井は真珠のコーチ松山が真実を言わなかったわけが解るような気がした。

(なんて・・・しぶとい子なの・・・)

急に本当の寒気が襲ってくる。
そういえば蒼井は下着だけで、下半身になにもつけてなかった。
季節は秋、もう初冬といってもいい季節だった。

第七話

第五話

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